#33
by marcy B
カニは7月中旬、事故により全滅。
毎朝、私が出勤前に食べかすや糞を掃除し、
保冷剤と大量の氷をカニのいる容器に入れていた。
さらに直射日光があたらないよう、葦簀(よしず)を立て、
暑さ対策をしていた。
実は7月は夫婦ともに忙しかったので、
数日前から妻の母親にヘルプで来てもらっていて、
息子の保育園への送り迎えをお願いしていた。
その日の朝、急に息子が保育園へ義理の母や妻とは行かず、
私と行くと言い出した。
悲劇の始まりだった。
親バカの私は、息子のわがままを聞いて、
カニの世話を頼むと妻に告げ、
息子を保育園に連れて行き、
自宅へ戻らず、その足で事務所に向かってしまった。
そして悲劇は起こった。
カニを入れた容器は、
自宅の庭で陽の当たるのが一番遅いエアコンの室外機の前に置いてあった。
容器には蓋がついているので、
直接、室外機の熱風がカニたちを襲うことはなかった。
葦簀を立てる際も、室外機の熱気が抜けるように、
全部を覆うのではなく、端をすこし空けて立てかけていた。
このことを妻に伝え忘れていたのだ。
悪夢の連鎖。
何も知らない妻は、葦簀でエアコンの室外機まで覆ってしまった。
普段なら、昼間は誰もいないのでエアコンは使うこともなく問題はなかった。
しかし、悪いことに、その日、義理の母は外出せず、
昼間、エアコンをつけて家にいた。
勿論、義理の母が悪いわけではない。
室外機の熱気が葦簀の内側でこもってしまい、
帰宅して餌を与えよう庭に出ると、もの凄い熱気を感じた。
「やばっ!」
慌てて葦簀を外し、容器の蓋を開けると、
16匹中15匹が水中で上を向いてフリーズしていた。
水に手を入れてみるとかなり生温くなっていた。
●被害状況
診断:熱中症
被害:死亡15匹、重傷1匹
かろうじて1匹は生きていたので、
大量の氷と冷水を入れて水温を下げた。
しかし、翌朝、最後のサバイバーも仲間の後を追って
天国への階段を上ってしまっていた。
残念!
カニたちの亡骸(なきがら)は全て庭の前を流れる運河に投げ入れた。
彼らの故郷の沢とはほど遠い、濃い緑色をした澱(よど)んだ水に沈んでいった。
「安らかに眠ってくれ」
と、少し感傷に浸っていると、背後から息子の声が聞こえた。
お祭りでもらったビニールのライトセーバーを振り回しながら
「ねえ、ダシュベダごっこ、ガシン、ガシンしよ!」と叫んでいた。
エピソード2完結
(01/9/2005)
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