Column

#13


by marcy B  

 

チップの威力

ヤンキーズがプレイオフで破れてしまった。
波田陽区ではないが
「残念!」
勝ったのは最大のライバルであるレッドソックスだが、
実は大好きな球団でもある。
以前にも述べたが、80年代前半、米国でしばらく滞在した場所が、
東海岸のコネチカット州ニューヘブンという町だった。
ニューヨークとボストンのほぼ中間地点で、
どちらの都市に行くにも2時間30分程だった。
当時のニューヨーク、特にブロンクスはかなり危険だったので、
自然とレッドソックスの本拠地、ボストンのフェンウェイパークに何度も足を運んだ。
実は社名にヤンキーズの本拠地があるブロンクスの名前をつけているが、
一番多く観戦したのは煉瓦造りの伝統あるフェンウェイパークだった。
そのフェンウェイパークで、友人と2人で観戦した時のこと。
ゲーム当日に買った安いチケットは3塁側2階席後方の席だった。
2階席に行き、年老いた案内係にチケット見せると
席まで案内してくれたので2人分で$2のチップを渡した
(当時、球場での案内は1人25〜50¢が相場だった)。
すると友人が「さっき俺が渡したよ」といったが遅かった。
案内係の老人は「サンキュー」といってすぐにポケットに入れてしまった。
まさか返してくれともいえないので仕方なく席に座ろうとすると、
その案内人は「ちょっと待って」といって、
指でカモンの仕草をした。
そして 私の耳元で小さな声で
「今日は誰それさんは観に来られないので、こっちに座っていいよ」と
年間契約されたボックスシートの最前列の席に案内してくれた。
礼をいうと真っ白で長い眉毛に隠れそうな目でウインクして立ち去っていった。
チップという習慣に馴染みがない東洋人が、
チップ社会の西洋に触れた瞬間だった。
「チップの力って、すごい!」と痛感した。
後年、香港取材の際、ホテルの部屋でパソコンで原稿を書くので、
ルームサービスに変圧器を頼んだ。
チップを渡して受け取ると、
その後、 30分おきにルームサービスがチェックだといってやってきた。
トイレに入ってタオルを使おうものなら、
即座に新しい物と交換してドアの前で立ってチップを待っていた。
不都合はないか、何か必要なものはないかとないか聞かれたので、
「Don't disturb」の札を持ってきてほしいと頼んだ。
「チップの力って、すごい!」。 

(27/10/2004)


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